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フロアいっぱいに響き渡る罵声が飛ぶ。紗智は嫌な予感が的中したことに落胆した。いくら社内の人間しかいないからって、言葉遣いが汚すぎる。前の職場はお客さまがホールにいたから、乱暴な言葉遣いはたとえキッチンでも禁止だった。ドリンクバーを取りに来たお客さまに万が一聞こえたら、大クレームになる。言葉遣いが汚い従業員が他の従業員を怒鳴りつけていたなんてクレームが入れば、即本部の監査かエリアマネージャーがすっ飛んで来る。
来客がない職場ってこんなに汚い言葉遣いしてもいいのか、それもこのフロアのトップ自ら乱暴な言葉遣いって、下に示しがつかないと思うな。でもまあ、郷に入っては郷に従えか。黙って発送作業を続けて大人しくしておいた。気づかないフリで教えてもらった発送作業を続けていく。柏木部長は私の側から走ってデスクの島の奥にある偉そうに威張り散らしている男性の席に行き、
「では長坂社長、職安挨拶回り行って参ります」
最敬礼でお辞儀をしてビジネスバッグを持ってフロアから出て行ってしまった。紗智は教えられた作業を終わらせて、デスクの島の一番端に座っていた女性に声をかけた。
「あの、失礼いたします。今お時間よろしいですか?」
女性はパソコンの画面から目を離して紗智の方を見て、
「ああ、新人さんよね。柏木部長が外回りだから教える人がいないけど…。とりあえず、今から私が印刷かける書類を三つ折りにしてこの封筒に一枚ずつ詰めて。宛名ラベルも印刷するからそれを貼って糊付けして、全部終わったら事務所の近くにある郵便局から簡易書留で発送してきてください。経費はこのおつかい袋に入ってるから無くさないように気をつけてください」
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