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居心地が良い職場で紗智は定期的に病院に通院しているとはいえ、滅多に遅刻や欠勤をせずに出勤出来ていた。病気のことは店長以外には内緒にしていたし、優しい店長も採用面接のときに、
「仕事だから特別扱いは出来ないからね。前にいた店舗でも上山さんと同じような病気の人がいたけどみんなと同じ待遇だったから。シフトは余裕を持って申請してとにかく休まないようにね」
そうアドバイスをくれた。私はショートという短時間の三勤四休のシフトから慣れさせていって、一年後にはロングという長時間の四勤三休までシフトを増やすことができた。二時間の休憩を挟んで10時間勤務する日もあったけれど、庶民的なファミレスという仕事が性に合っていた。
何より病院に通うのに平日休みの仕事はありがたかった。土曜日は予約が取れなくて通院は平日だったから、三日の休み全てを平日にしていた。ファミレスはサービス業なので土日祝日に出勤出来るフリーターは重宝された。
そのファミレスで五年ほどアルバイトして、紗智はあっという間に23歳になっていた。かつての高校の級友達は大学を卒業して就職していた。高校の同級生が偶然、平日のランチ帯に食事に来ていた。
「あれ、紗智?久しぶり元気だった?」
彼女は某ファッション雑誌で有名な「カニちゃん」こと、蟹沢由貴そっくりのOLファッションに身を包んでいた。紗智は手早くハンディでオーダーを取りながら、営業スマイルで答える。
「元気だよ。愛も元気そうだね」
ピンポーンと他の卓で呼び鈴が鳴ったので紗智は愛とお喋りしている時間がない。ごめんと手を振って他の卓に向かう。心の中が久しぶりにザワザワする。高校で急に難しくなった勉強についていけなくなって鬱状態になった昔の私がホールの柱の陰で泣いているような気がした。
優秀な同級生達は厳しい大学を卒業して就職活動を勝ち抜いて、スーツやオフィスカジュアルを着こなして、パソコンに向かって仕事をしている。食べ物を扱う私が絶対に出来ないネイルアートも仕事中なのにバッチリしてる。
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