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「給湯室にある包丁って、いつの時代からそこにあったか解らない代物でさ・・・」
「この話は、まだ続くのか・・・」
勝巳のよわよわしい独り言は二人の耳に届かない。
胃がだんだん痛くなってきた。
目眩すら感じる。
「ああ、あるある。あるわあ。うちの医局にも。基本、切れないのよね。誰もケアしないから」
「そうそう。だから、変に力を入れたら思いの外ざーっと行っちゃって・・・」
既に往年の友人のような会話を続ける二人のそばで、クッションにもたれたままの勝己は微動だにしなかった。
「で、勝己はへこんでるの?それとも貧血起こしているの?」
「両方・・・」
「マルチで名高いあなたがよもやお兄さんの怪我を見て貧血起こすなんて、教授たちもびっくりね」
「へえ。こいつ、マルチなんだ?」
相槌を打ちながら憲二はふと気が付いた。
普段から、弟は自分のことをほとんど話さない。
いつも、穏やかに笑っているから、それが当たり前で。
何も、知らないのかもしれない。
こんなに長い間、そばにいるのに。
「そうよ?専門を決める時に教授たちがもめてもめて・・・。体力あるし、力もあるし、決断は早いし、なのに手先は器用で細やか。分析にも長けてるしね。私、部長に色仕掛けして引き入れろって真顔で言われたわ」
「え・・・?」
「いろじかけ・・・」
これは勝巳も初耳だったようで、茫然としている。
「いやあね。私があの馬鹿部長の言いなりになるわけないでしょう。それに、付き合いだしたのって、あなたが医局に馴染んでからじゃない」
「それも、そうだ・・・」
ぼそりと呟き、ついでにクマのようにのっそり立ち上がって勝己は物置から救急箱を取ってくる。
「ついでに新しい絆創膏貼るか。憲」
「もう、大丈夫なの?」
「多分・・・」
「あぶなかっしいわね。私がしましょ」
市販の消毒薬を吹きかけて、首をかしげた。
「絆創膏、二種類あるけどどちらが良いかしら。湿潤治療の方だと傷口も綺麗に治るし貼りっぱなしでお風呂も楽なんだけど、合う合わないがあるから・・・」
「俺、そっちはダメみたい。だからここへ来たんだけど・・・」
「え?」
きょとんと目を見開いた可南子に手を取られたまま、憲二は隣を仰ぎ見た。
「勝己。頭と顔洗って欲しい。意外と難しいと解ったらどうにもこうにも我慢できなくてさ」
「は?」
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