mizuki-side:7月3日(午後)

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 僕はそんな団地と団地の間を縫うような細い道を歩くのが好きだった。いくつかの公園と、小さなスーパーマーケットを横切り、緑地の脇を抜けて自宅へと向かう夕暮れ時。一日の中で、ひときわ輝いている時間帯だと思う。そこには確かな生活の息遣いを感じることができるから。 「あのっ」  そんな団地街の狭い十字路を曲がろうとした時だった。聞き覚えのある声に僕は立ち止まる。空間に立ち消えてしまいそうな弱さを感じるのに、時の流れに抗うかのような力を持っているその声。糸乃空(いとのそら)だ。 「今日は何?」  振り向くと、彼女はセーラー服姿だった。胸元にゆらめく水色のスカーフと、両手に持っている茶色の鞄から、僕が通う常陽(じょうよう)高校の生徒であることは間違いない。 「あれ、常陽の生徒だったの?」 「えっと……、それは……」  午後の風が、戸惑うようなそぶりを見せた糸乃空を通り抜けていく。 「何年?」 「一年です」  一年ということは、林大樹(はやし だいき)の妹と同級生ということになる。彼女がこんなに身近にいたなんて驚きだ。 「向かいの公園で、少しだけ話をしないか?」     
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