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常識的に考えれば、僕の質問は馬鹿げているけれど、そう考えれば彼女の行動に筋は通る。列車の脱線事故をあらかじめ予知できたから、あの時、駅のホームで僕を引き留めたのだと……。
空は小さく首を振ると、「少なくとも、もう先のことは分からないの」とだけ言って、微かに揺れているブランコを眺めていた。
むしろ否定してくれた方が、それはそれで納得できたのかもしれない。空の 『少なくとも……』という答えは、『あの時に限って言えば……』 という条件付きで、ほんの少しでも未来が見えていた可能性を示唆している。
「あの……。連絡先、教えてくれないかな」
煮え切らない想いはない、と言えば嘘になる。ただ、なんとなくその答えは僕の側から引き出してはいけない気がした。
「きっとつながらない。それでも良ければ……」
空は、鞄の中から携帯端末を取り出すと、その画面にソーシャルメディアのメッセンジャーアプリケーションを立ち上げ、アカウントの二次元バーコードを表示させた。
「つながらないって、電波の届かないところに住んでいるとか?」
僕は自分の端末を空の端末に重ね合わせて、アカウント情報を登録する。
「概ねそう」
「えっと……、マジ?」
小さくうなずいた空の顔に、初めて見る優しい笑みが燈っていた。
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