mizuki-side:6月30日(午前)

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 そもそも、一分が六十秒で、一時間は六十分なのに、なぜ一日は二十四時間なのだろう。世界で最も用いられているであろう記数法は十進法だと思うし、十という数字は直観的にも理解しやすい。だから、よくよく考えてみれば、六十とか、二十四という数字こそが不自然ではないか。そういえば一年は十二ヵ月だから、ここにも十進法は採用されていないんだ。昼夜を平等に二十四分割する、それはある種の思想と言っても差し支えないだろう。別に二十分割でも良かったはずだし、世界の分節の仕方なんて、それほど明確な理由や根拠があるわけじゃない。 「あの……」  後方で微かに聞こえた細い声。それをかき消していくように、列車の走行音が目の前に迫ってくる。車両を減速させるためのブレーキと、警笛がこだまする灰色の駅構内で、後ろから腕をギュッと引かれた僕は、その声が現実のものだと知る。  振り返ると、真っ白な半袖のカットソーに、水色のロングスカートをはためかせた小柄な女性が、僕の腕を力強く掴んでいた。目の前を通過した先頭車両は、線路上の空気を勢いよく跳ね除け、僕と彼女の前髪をサッと揺らしていく。 「なに?」  僕の問いかけに、彼女は今にも泣きだしそうな表情で僕を見つめ返す。その鮮やかな視線に一瞬だけ時が止まる。やがて、列車がホームの規定位置で停車すると、凍りついた時は一瞬にして溶解し、人の流れが、僕を列車内へ押し込むように動き出していく。 「待ってください」  そう叫んだ彼女は、その流れに抗うかのように、僕の腕をつかんだ手に力を込める。それは、多様性を取り戻そうとする力、あるは願いに近い。僕は瞬間的にそんなことを考え、彼女の大きな瞳から視線を離せなくなってしまった。 「どういう……つもり?」     
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