mizuki-side:6月30日(午前)

4/7
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
「ここで少しだけ、一緒にいてください」  そう言った彼女の視線の先には小さな喫茶店があった。いわゆる駅ナカと呼ばれる駅構内に展開された商業スペースには、飲食店や本屋、雑貨屋などが並んでいる。喫茶店内には、ビジネススーツに身を包んだ数人の大人が、それぞれにノート型の端末を叩きながら、時折コーヒーカップに口をつけていた。  僕はゆっくりため息をつくと、腕時計を見やる。一限目に間に合わないことは確定したが、せめて三限目からでも学校へ行かないと、出席日数に大きな穴が開きそうだ。 「少しだけなら……」 「ありがとうございます」  彼女はそう言って、小さくお辞儀をすると、自動ドアをくぐり店内に入って行った。コーヒーの匂い香る店内で、しばらくメニュー表を見ていた彼女は、注文カウンターの前に立つと、「アイスコーヒーで良いですか?」 と僕を振り返った。そんな彼女に向かって僕はゆっくりうなずき、そして店内を見渡す。黒を基調とした内装は、オレンジ色の間接照明に照らされ、慌ただしい駅構内とは対照的な、落ち着いた雰囲気が演出されていた。     
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!