mizuki-side:6月30日(午前)

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 彼女が注文してくれた二人分のアイスコーヒーと、ガムシロップ、そしてストローやミルクをトレイに載せると、僕は奥の窓際に置かれた二人掛けのテーブル席に腰掛けた。 「あの、名前。名前は?」  僕と同じくらいの年、いや、年下かもしれない。木製の椅子に浅く腰掛け、腕を組みながら窓の外を眺める。忙しない人の流れが、まだ朝の通勤時間帯が終わっていないことを告げていた。 「えっと……」  彼女は僕の質問に一瞬驚いたような表情を見せたが、まだ自己紹介していなかったことに気が付いたのだろう。 「糸乃、糸乃空(いとのそら)といいます」  糸乃空。やはり記憶には存在しない名前だ。 「そう……。ああ、僕は相羽瑞希(あいばみずき)」 「突然、ごめんなさい。でもこうするより他なかった」  ――こうするより他なかった?  彼女の振る舞いやその言動を理解することの困難さに、小さくため息をつくより他ない。 「どういうこと?」  僕の質問に糸乃空はただうつむいているだけだった。カランと、グラスの中で氷が崩れていく音を聞いて、僕はアイスコーヒーにストローをさす。一口飲みながら、窓越しに見える駅構内のコンコースに再び視線を向けた。 「あれ、電車遅れてるのかな……」     
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