mizuki-side:6月30日(午前)

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mizuki-side:6月30日(午前)

 世界から一つだけ色が欠けている。僕はずっとそんな気がしていた。それが何色なのかはよく分からないのだけれど、景色に奥行きがないのは、欠如した色彩によるものなんだと、幼いころからそう思ってきた。 『まもなく、五番線に下り列車が到着します。黄色い線まで、お下がりください』  無機質な駅構内放送に、久しぶりに日常を感じてしまう。混雑のピークは過ぎているはずだったけど、学生服に身を包んだ高校生や中学生、あるいは職場に向かうのであろうワイシャツ姿の大人たちは、忙しなく改札を潜り抜け、列車の発着するホームへと向かっていく。  みな、同じような格好をして、同じような列車に乗り、同じような駅で降りるその流れに、どうしようなく嫌気がさす。多様性が大事だ、なんて言われる社会で、結局のところ、大抵の人は、他者と同じように行動し、同じようなスケジュールで二十四時間を消費していくんだ。     
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