mizuki-side:7月3日(午前)

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mizuki-side:7月3日(午前)

「なあ、相羽(あいば)。お前さ、卒業後の進路どうすんだ?」  校舎の屋上を、ゆっくりと吹き抜けていく風が清々しい。もう夏と言っても良い季節なのに、今朝は湿気も少なく、気温も低めだった。ここからは、都内の住宅街が一望できる。古くから立ち並ぶ密集した木造家屋、その向こうには、高層マンションが立ち並ぶ新興住宅街が続いている。  校舎の屋上は、生徒の立ち入りが禁止されているのだが、林大樹(はやしだいき)はなぜか、この場所へ通じる扉の鍵を持っていた。部活の関係上、なんて言っていたが、本当のところはどうだか良く分からない。 「大学……か。受験はすると思う」  勉強が嫌いなんじゃない。学校でいじめを受けているわけでもない。ただただ、決められた通りのレールに乗っかるのが昔から好きじゃないんだ。とりあえず大学へ行く、そういう無難な考えも、正直どうかと思う。  むろん、無難という日常は、ある種の贅沢だという事も分かっている。経済的な理由で大学へ行けず、働かざるを得ない人たちも確かに存在するはずだから。いずれにせよ、“こうするより他ない”という日々の連続が十代後半の日常ってやつかもしれない。     
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