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「おい、内藤。あそこに石碑が有ろうが」
黒木が、〈おでんの石村〉の前の歩道にある石碑を指さした。
「あれに『追山発祥の地』て書いて有るとばってん、何(な)んでか知っとうや?」
「いいや、知らん」
「なんや、そげな事も知らんとや。昔はくさ、現在(いま)と違うて、大きな*飾り山ば舁(か)きよったとは知っとろう?」
「うん」
「途中で弁当ば使うたりしてから、ちんたらちんたら行きよったったい」
「うん」
「三百年くらい前に、*石村総代の家から、官内町に嫁に行ったったい」
「うん、うん」
「そいでから、正月に二人で里帰りした時に、土居町の連中が官内町の花婿に*にくじゅうしたったい。水はかけるわ、桶ば頭にかぶせるわ。これが土居町のしきたりたい、て言うてからくさ。土居町の娘を他町に取られて、焼餅ば焼いたっちゃろうねえ」
「それで?」
「それから、土居町と官内町が大喧嘩になってくさ。山笠の時に土居町が弁当ば使いよったら、後山(あとやま)の官内町が、土居町ば追い越してしまえと走り出してから、慌てた土居町が、弁当放り出して山に戻って急げ急げて走り出す。これが追山の起源たい」
「へぇー」
「中土居町には、そげな歴史があるとぜ、良うと覚えときやい」
黒木は偉そうに言った。
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