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「泣いてんの?」
音楽室から出てきた俺に、聖羅が強烈なカウンターを喰らわす。
「は? 泣いてねーし」
「ふぅん。目、赤いよ」
「コンタクトがズレたんだよ。ばぁか」
「あ! ちょっと待ってよー!」
俺の背中を聖羅が慌てて追いかけて来る。コイツには、デリカシーってもんがないのかね、全く。
「初恋で、初失恋か。辛いね」
「はぁ? 何言ってんだ? 馬鹿じゃね?」
初恋? だったのか? よくわからない。
「なったげようか? 初カノ」
「はっ?」
「失恋には新しい恋! って、よく言うじゃん」
「お前、馬鹿なのか? いや、薄々そうじゃないかとは思っていたが、ここまで馬鹿だったとは……」
「何よ! 失敬な! あたしは、あんたの為に……」
「はいはい。わかりました。いつも感謝しております」
「もう! 馬鹿にして!」
喚く聖羅を適当にあしらい、黄昏に染まる空の下、大きく一歩踏み出した。
そういえば来年、受験だな。
大学もコイツと一緒だったら、案外退屈しないかもな。
一番星を見上げ、ふと、そう思った。
(了)
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