水島先生

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その日、俺は部室に籠り、思いつく限りの愛の言葉を、レポート用紙に書いては消し、書いては消しを繰り返していた。 軽音部の部室は、音楽準備室だった。狭くて薄暗いこの空間を、俺は結構気に入っていた。 さすがに全部員が一斉に使うことはできないので、ハンドごと曜日を決め、順番に使用することになっている。俺たちのバンドは、水曜日だ。   「あー! もう、わかんね!」 口にするのも恥ずかしくなるような愛の言葉を幾つも並べているうちに、俺の頭はいつしか、お花畑の無限ループに迷い込んでしまったらしい。 「ちょっと休憩するか」 外の空気が吸いたくなり、俺はドアノブに手を掛けた。 その時。 清らかな川のせせらぎが聞こえた……ような気がした。 清流? いや、これは……。 ピアノだ。扉の向こうから、流れるようなピアノの音が響いてくる。 山間の小川を流れる水のせせらぎのような音は、少しずつ形を変え、メロディーという姿を現す。 「この曲……」 思わず、腕に力が入った。 「あっ……」 「えっ?」 気が付くと、俺は音楽室の中にいた。 「びっくりした。ずっといたの?」 切れ長の瞳を大きく見開き、水島先生は胸を押さえた。 「あの、すみません。ずっと曲書いてて……」 「ああ、軽音部の?」 「そうです。桜田です。二年の桜田響」 「そう。遅くまでご苦労様」 そう言って、彼女は笑った。
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