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「えーっと、名前…」
「私、釜谷。この漢字」
名字を伝えて、学級日誌の記入者の欄を指で差す。
芳崎くんは釜谷、と私の名字を繰り返すと、私の目を覗き込む。
切れ長の目に覗き込まれると、何故だか見透かされるような感覚に陥って、思わず目を伏せた。
私が目を逸らしたことには触れないまま、芳崎くんは言葉を続ける。
「釜谷って、字綺麗だな」
「そ、そうかな?初めて言われた」
嬉しい、と言いながらやっぱり目が合わせられなくて、私は意味もなく学級日誌を見つめた。
「…俺さ」
静かなトーンで話を切り出す芳崎くん。
私は学級日誌に落とした目線を変えないまま、その声に頷いた。
「他の奴らもそうだけど…。釜谷は俺のこと怖がってんのかなって思ってたんだよね」
そう言われて、今現在目を逸らしていることを思い出す。
誤解されたーーーそう思って否定の言葉を口に出そうと顔をあげた瞬間、ふわりと頬笑む芳崎くん。
「釜谷って…顔赤くして、可愛いのな」
そう言うとすぐ、芳崎くんは学級日誌を持って立ちあがり、背を向けて廊下の方へ歩き出した。
「これありがとな。職員室、出しとくから」
私は教室を出ていく芳崎くんを呆然と眺めながら、その耳が夕焼けと同じ色だ、なんてことをぼんやりと考えるのだった。
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