泡包みの人形姫と魚臭い王子

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―魚姫― 霊場の地で、海へ身投げしようとした若い姫がいた。 ある小国の王子に、魚のように美しくないから、興味がないと言われたらしい。 姫は、魚以下の存在と思われた事がとても辛かった。 その結果がこれだった。 姫は、崖の上に立ち靴を脱ぎ捨てると、これまでの行いを悔やみ、一歩また一歩と海へと近付いていった。 あと一歩で終わる… 姫が、最期の一歩を踏み出そうとすると、誰かがその震える右手を後ろから引っ張り、姫の命を救った。 姫は複雑な心境で振り返った。 何故、わたしなんかを救ったの、と。 見ると、そこには黒いローブの男が立っていた。 黒いローブの男は、冷たく言った。 「独りで逝かれては困るからだ」と。 つまり、独りではなく、「もう独り」と一緒に逝け、ということ。 黒いローブの男は、本当にただ、「姫の命」を救っただけだった。 姫は、酷く傷付いた胸をおさえながら、地面に膝をつけると、黒いローブの男の事を憎しみの眼で見上げていた。 黒いローブの男は、そんな姫に「分厚い本」を差し出して言った。 「お前が逝こうとした場所に逝きたい者がもう独りいる、そいつを道連れに深海へと潜るのだ、魚の死骸にまみれ、人間ではない、人魚になれ、そうすれば魚好きの王子がお前を抱いてくれるだろう」 「そいつもお前のように、人の命を粗末にする愚か者で、お前の宿敵である」 姫はその「宿敵」という言葉に眼を見開いた。 そして、分厚い本を開いて、自分の物語を読み解いた。 そこには「マッコウクジラの刺青」と黒文字で書かれ、 次のページには「ダイオウホウズキイカの刺青」と黒文字で書かれていた。
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