5局 遠見の角

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5局 遠見の角

「はい?もしもし」 千明が夜の7時に出た電話は、元勤務していた会社の女上司だった。 『ごめんね……あのさ』 女課長の話では、会社に復職をして業務を手伝ってほしいという事だった。 「石橋君は?それに美紅は?」 『あの二人、なんか結婚やめるとかいって揉めてるわよ。だから仕事が中断してこっちも迷惑なのよ……』 今回の三角関係を全て知っている女上司はもちろん千明に応援を頼むのはお門違いと思っているが、前任者で優秀な千明に頼まないと納期に間に合わず背に腹は変えられない状況だと話した。 『それに美紅はつわりがどうこういって、全然会社に来ないの』 「そうだったんですか」 あんなに自分を目の敵にして仕事も男も奪った彼女が、それを放棄している事が千明には理解できなかったが、世話になった上司は本当に困っているので、彼女は翌日から、元会社にバイトでやって来た。 『マジでごめんね』 「いえ。元はと言えば自分が立ち上げた企画だったし」 そうはいってもさすがに今の自分の立場がおかしいと自覚していた千明は、出社時間をずらした上、別室で仕事をしていた。そんな会議室にノック音がした。 「いた?千明!お前、来るなら来るって言ってくれよ」 「そんな事言ったってさ……」 怒っていると思った石橋直人だったが、千明を見てほっとした顔をしていた。 「あのさ。今日の帰り相談に乗ってくれないか?」 「普通に嫌ですけど」 「そんなこと言うなよ!お前の他に相談できるヤツいないだろう」 「……わかった。じゃ。帰りね」 そして昼休みも部屋にこもって仕事をした彼女は、少し早めに退社し、直人と近くのコーヒーショップにやって来た。 「あのさ。美紅のことなんだけどさ」 「はいはい」 「……お前、あいつが整形美人って知ってた?」 「ぶ!」 これにはさすがの千明も飲んでいた水でむせてしまった。 「ど、どこを?目を二重とかでしょう」 「いや。どこがどうとか、そういうレベルじゃ無いんだよな」 直人の話では彼女と同じ大学だった人に写真を見てもらって発覚したと話した。 「これだよ。さすがに俺も凹んじまってさ」 「はあ……何つうか医学ってすごいんだね」 感心している千明に直人はふざけんな!と不貞腐れてソファに背持たれていた。 「それでさ、俺この話をアイツにしたら、なんかキレちまってさ……俺を部屋に入れてくれないんだよ」 「あんた締め出されたの?自分が借りているマンションなのに?ふふっふ」 しかし直人は真顔を千明に向けた。 「お前さ。これから一緒にマンションに行ってさ、アイツと話をしてくれないか?俺は実家に帰るから」 「なんで私が?」 「だってお前はアイツの上司だったし、それに俺の元カノだろう?なあ、頼むよ」 ここまで言われた千明は、とにかく二人に仕事をしてもらいたいので、美紅に逢うためにかつての愛の巣にやってきた。 「……こんばんは!私よ」 「先輩?ああ、良かった!入ってください」
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