第2話  引越し

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第2話  引越し

 台東区東上野6丁目の雑居ビル2階。ここが斎藤と柿崎の新しいオフィス。新しいと言っても新しいのは入居する二人であって、建物そのものは築40数年の古い3階建てビル。  山手線と並行して通る清洲橋通りに位置し、上野駅までは徒歩で5分。移動には確かに便利なところだった。  季節は10月になろうかという初秋だが残暑はまだ厳しい。 「斎藤さん、この書類の段ボールはどうします? 収める場所がもうありませんよ」  運び入れた書類用ロッカーはもう一杯である。 「もうひとつ書類棚をリサイクル店で買って来よう。いや、ネット通販の組み立て式の骨組みだけの棚でいいや。処分が楽だ」 「じゃあ適当なのを注文しておきます」 「あいよ。頼んだ」  何とか引越しは済ませて、事務所らしくなってきた。  もう陽が暮れて来ている。この事務所は西日がきつい。 「アッチィ~なぁ。エアコン屋はいつ来るって?」  まだ冷房は入っていない。 「明後日です」  ハンカチで汗を拭う柿崎が申し訳なさそうに返した。 「マジかよ~。だから早目に注文しておけって言ったんだよ」  不機嫌な斎藤。 「スイマセン」 「シャワーくらい付いていたら良かったのになぁ」 「あ、でも銭湯を近くに見つけましたよ」 「あ、ホント? 俺たちそこの常連になりそうだな」  と斎藤はニヤけた。 「そうっスね」  斎藤の機嫌が直った様子に柿崎はホッとした。
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