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その後二人は引越し祝いに近くの食堂で一杯やっていた。
「引越しって言えば蕎麦だろ~?」
ざるそば大盛りをすする斎藤が柿崎を見る。
「僕、蕎麦アレルギーなんですよ」
「はぁ? だからカツ丼?」
柿崎はカツ丼を食べていた。
「何か、縁起ものじゃないですか、カツ丼って」
「そうだけど、何のゲン担ぎだよ」
眉を寄せて柿崎を見る斎藤。
「まぁ何と言うか、この仕事に〝勝つ!〟みたいな。ハハ」
「何だそりゃ。まぁ気持ちは分からなくも無いけどな」
「ですよね、よかったぁ」
上司である斎藤に柿崎は気を遣いっぱなしだ。
「お前、俺にそんなに気を遣うなよ」
「へ?」
やはり斎藤はそれが気になっていたようだ。
「お前はこの仕事では俺の相棒役だ。この先どんな状況になるか分からない任務だけど、下らねぇ事に気は遣うなよ。それより気を配るのは仕事の精度だ。例えばエアコンな」
「ハァ・・・」
困る柿崎。
「それは冗談だよ。エアコンなんてちょっと我慢したら済む話だ。実際怖いのは僅かな段取りミスで全てが狂っちまう事だ」
「・・・・・・」
柿崎は真剣に耳を傾ける。
「そこはお互い抜かりなく緻密に行こうぜ」
手を差し出す斎藤。
「?」と恐る恐る手を差し出す柿崎。斎藤はその手をガシッと掴んで強引に握手をする。ニコリとして言った。
「ヨロシクな」
「はっ、はい、よろしくお願いします!」
「何かツマミ頼めよ。今日は事務所開きなんだからよ」
柿崎のグラスにビールを注ぐ斎藤。
「あ、スンマセン」
両手でそれを受ける。
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