第2話  引越し

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 柿崎は一橋大学 法学部出身のエリートだ。名前は雅也と言った。どう言った経緯で公安調査庁に来たのかは本人のみぞ知るところだろう。公調が法務省という部分では畑違いでも無い。入庁当初は総務課の情報管理室にいた。メインの仕事は書類の管理だった。ここ工作推進室に移動になってからは5年目であり、同じ世代の調査第1部、第2部へ配属になっている人間も含め、その中ではピカイチの人材で働きぶりも評判は良かった。  同じ部署でも斎藤と仕事が絡む事は過去に無く、やり手の先輩としてしか斎藤を知らなかった。もっともその仕事の特殊性から同じ部署でも誰が何を担当に動いているのかは、お互いが知らないのもこの業務の特徴である。今回組んだ仕事に出世が絡んでいるとなると柿崎の中に眠っている闘争心に火が付いた。ましてや斎藤と組むとなると、ある意味では安心が出来た。それは斎藤が頼れる先輩であるからに他ならない。 「斎藤さんはMKウルトラ計画の事は知っているんですか?」  斎藤にビールを注ぐ柿崎。 「うん、まぁな。業界では有名な話だ」  ゴクリとビールを飲むと、 「ただ、どこまで本当の話なのか、信じがたいのも本音だな」  とポツリ呟く。 「ふーん。結局その計画の目的は暗殺者や兵士をつくることですよね」 「広く言えばそうだな」 「催眠術で足りるんじゃないですかね」 「催眠術?」 「はい。よくテレビでやっているじゃないですか。すごく掛かりやすい人じゃないと駄目ですけど、簡単に意のままに動かせるんですよ」 「ほう。例えば?」  斎藤は肉野菜炒めを皿に取る。
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