第2話  引越し

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 季節は2月を迎えていた。斎藤と柿崎の二人は準備期間として夏からこの上野事務所に籠っている。時々青木室長がやってきて情報と資料を持ってきて打合せするといったパターンの業務が続いていた。 「どうだ、渡した本は読んでみたか?」  と中古の皮の応接ソファーに座る青木室長が斎藤に聞いた。 「あの須郷大典(すごうたいてん)の本ですか?」 「そうだ」 「ええ。読んでみましたけど、至極真っ当だと思いましたね・・・」 「はぁ? お前何を言っている。あれは政府の方針を妨げる書だぞ」  怪訝な顔をして斎藤を見る青木室長。 「しかし様々な見方があっていいと思いました。あれはあれで正解かと」 「まぁ、感じ方も様々だぁな。だけどお前その感情を他で出すな」 「はぁ・・・」  チラリと二人を見る柿崎。冷蔵庫の扉を開けるとペッボトルのお茶を出してグラス2個に注いだ。  青木室長が季節に関係なく冷たいお茶が好きだと知っていて、冷蔵庫には2リットルのペットボトルのお茶が買い置きしてある。 「どうぞ」  と二人の前にそのお茶を出す。  すると青木室長はそれをひと口で飲み干した。それを見て再び冷蔵庫の扉を開ける柿崎。ペットボトルを出すと再びお茶を注いだ。
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