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〝ガラ―〟と勢いよく引き戸が開いた。
廊下から入って来た男は小柄ながら目に力を感じる寡黙な雰囲気の男だった。
「お待たせしました」
と敬礼されると同時にイスから立つ二人。
迷彩ジャケットの上にオリーブ色の簡易ジャンパーを羽織った男。
「杉山です」
と言った。階級章は外してあった。
二人は名刺を出してそれぞれが挨拶をした。
「あえて所属も階級も申し上げませんがご了承ください」
二人の目をグッと見て言うと、
「どうぞ、お掛け下さい」
と手を差した。斎藤がコートを脱ごうとすると、
「いいです。寒いので着たままで話しましょう」
と杉山が言った。
その雰囲気と態度からそれなりの高官と感じる40代ほどの男。柿崎はそのオーラに緊張気味だった。
「話は大方伺っております」
杉山が言うと、
「うちの青木でしょうか?」
斎藤が聞く。
「青木? いえ違いますよ。まぁそこは・・・」
と話を濁す杉山。そして、
「雪が溶けて入山可能になった頃でしょうね、任務は」
と斎藤に問いかける。
「ハイ。その頃を予定しています。統計的にも自殺者は年度初めが一番多いらしいので、その時期でよろしいかと思います」
「何人くらいを予定しています?」
「あ、それは時に一人でいいかと。あまり年寄りだと支障がありますので、働き盛りの丁度我々ほどの世代の男性でお願いしたいと思います」
「承知しました」
「その後は自衛隊さんの方で搬送は任せていいのですよね。もちろん我々も現場には立ち会いますが」
「ええ、そこまでは我々が実施します。あとぉ、これは自衛隊の任務ではありませんので、その名前は出さないように気を付けて頂きたいです」
とハッキリと言う杉山に、
「あぁ、これは失礼しました」
と斎藤は頭を下げた。それを見て柿崎も続いた。
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