第3話  面会

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 斎藤の住まいは港区虎ノ門の賃貸ワンルームマンションだ。地下鉄日比谷線、神谷町駅まで徒歩3分。そこから霞ヶ関までは僅か2分。徒歩で庁舎に向かっても15分程の非常に良い立地条件だった。今回の上野にある事務所までは日比谷線を利用でき、それでも23分程で駅には着く。徒歩で事務所までは7分程。つまり30分もあれば移動できる。  築15年ほどのあまり新しいマンションでは無かったが、移動時間を何より優先する斎藤の意向にはピッタリの物件だった。  ベッドとPCデスク。テレビが置かれただけのシンプル過ぎる部屋だった。もちろんスーツが普段着のような斎藤の洋服をしまう衣装ケースはベッドの脇にドンと置かれている。  部屋にいる時は動きやすい黒のスエット姿が多い。食事は外食がほとんどだ。今日も上野事務所に着いてから柿崎と定食屋で食事は済ませた。  デスク用チェアーを移動してテレビのニュースを観ている斎藤。座卓、テーブルは無く小さなサイドテーブルがあり、その上にはウィスキーの水割りが置かれていた。テレビでは政治評論家の坂上秀和というコメンテーターがキャスターと対談をしている。 「2003年の春、来るべきものが到来しました。大銀行破綻が現実の問題として浮上したのです。大銀行破綻を容認するなら、日本経済は間違いなく金融恐慌に突入したはずです。企業は連鎖倒産の嵐に巻き込まれたでしょう」 「ほうほう。でも破綻は無かったですよね」 「それは金融法制には巧妙な抜け穴が用意されていたからなんです。預金保険法102条第1項第1号措置です」 「それはどんな規定なんですか?」 「金融危機を宣言しながら、金融機関を破綻させずに資本注入を実施できる規定です。税金を注ぎ込んで救済するんです」 「そんな規定があるのですか?」 「はい。最終的に鍵を握ったのが『繰り延べ税金資産』と呼ばれる会計費目です。5月17日の政府案では、繰り延べ税金資産の計上が3年認められました」 「3年ですか」
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