第3話  面会

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「非合法活動ですので当然我々も隊の格好では来ませんし、車も一般のワゴン車か何かです。そこの細かい打合せは時期が迫ってから行います」 「ハイ。承知しました」 「公調さん側からは斎藤さん、柿崎さんの2名で?」 「ええ、我々だけの仕事ですので」 「当日はお車でお越しですよね?」 「ええ、その予定です。帰りは後ろから追尾します」 「了解しました。それでは、わざわざお越しいただいて簡単な打合せでしたが、以上ということでよろしいでしょうか?」  と立ち上がる杉山。 「あ、ハイ。よろしくお願いいたします」  慌てて立ち上がる二人。 「では、このまま少しお待ちください。係の者が来ますので」  と杉山は二人に敬礼をするとその場を立ち去った。  あまりに軽い挨拶だけのような打合せだったが、顔合わせと言う意味で斎藤がお願いした場だった。その目的はじゅうぶんに果たせた気がした。  ほどなくして若い隊員が来ると、自衛隊オリジナルのレトルトカレー、バターサブレー、バウムクーヘンなどが入ったお土産をくれた。  春になったらいよいよ任務を実行する。これから彼らがしようとしている事は明らかな非合法行為であり被験者の拉致である。その実験の中での標的も決まっている。須郷大典という政府にとって都合の悪い作家である。斎藤は政府に近い立場でいながら犯罪に手を染める覚悟をしなければならなかった。  その最中ふと斎藤は思った。「犯罪とは何だろう?」と。政府の立場なら犯罪行為も正義に変わってしまう。戦争がいい例だ。どんな非人道的行為も勝てば正義、負ければ悪。国家規模の贈収賄行為なら許されて、スーパーで500円の商品を盗んだら犯罪者とされる。  自分の中のモラルが歪んでいくのを感じていた。
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