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僕らは死んだらどこへ行ってしまうのだろう。
この問いに答えられるのは死んだ者だけだ。どんな天才が考え出した答えでも生きているうちには必ず最後に「だろう」が付く。なぜならその天才は生きているからだ。
いつでも新しいところに行くには不安と恐怖がある。死ぬのだって同じだ。新しいところに行っても僕らが再び出会うのかなんて分からない。
だから最後だけ。この時間だけは手を繋いでいたい。別れがきたらきっと、離すから。
柄にもなくこんなことを考えているのはきっと酔っているせいだ。
気付くと、夏菜がなにやらはしゃいでいた。
「あなた見て、綺麗な虹よ!………え、え、虹?今って夜……」
「言ったろう。異常だって。」
「そうだったわね」
いつまでもこんな時間が続けばいいのに。
そんな彼女の意見に同意せざるを得ないのは不謹慎だろうか。でもしょうがない。本当に僕もそう願っているから。
だが終わりの時間は確かに近づいている。これだけは伝えなければいけない。
一度大きな息を吸ってから僕はこの世界に、君に届くように叫んだ。
「夏菜、ありがとう」
その瞬間に、僕の右手を繋いでいた夏菜の手から力がなくなった。僕の手を抜け落ちようとするその手を僕は必死に捕まえる。僕の声が届いたかどうか分からない。でも、心なしか夏菜の顔が照れているように感じられた。それを見て、僕は心を落ち着かせるためにまた大きく息を吸った。しかしその息は二度と吐かれることはなかった。
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