異常な星

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気づいた頃にはもう手遅れなんてことはよくあって、これもきっとそのうちの一つである。夏菜が出ていってからはや30分。時計の針が進むのがすごく遅く感じた。まだかと思っていた時玄関が開く音がした。 「本当にいつも急なんだから!なんの準備もないじゃない!」 「そんなこと言われても……僕だってさっき気づいたんだから」 僕は仕事柄ある星を観察している。観察というよりかは計測に近いのだが、観察という言葉が僕は好きだ。今日も何気なしに観察していたら、ある数値が異常なほど上昇しているのに気付いた。それはいつ人が死んでもおかしくない数値である。 「本当に今日で終わるの?そんな感じしないんだけど…」 「本当だよ。ところで何を買ってきたの?」 残された時間は少ないと伝えたのに夏菜はスーパーに何かを買いに走っていた。今も少し息切れをしている。それは、やはり気になる。 「そんなもの決まってるじゃない!最後の晩餐といえばワインでしょ!」 もうすぐ死んでしまうというのにいつもと変わらぬ夏菜がそこにはいた。 「ねぇ、本当に今日で終わるの?」 もう一度同じ質問が飛んでくる。 「あぁ、終わるよ」 「そう、」 僕には彼女の目がどこを見ているのかいまいち掴めなかった。 「最後にさ、質問いいかな?」 「珍しいね」 「最後にあなたは何が欲しかった?」 答えに戸惑った僕は質問を返した。 「何個でもいいのかい?」 悩むそぶりも見せずに夏菜は手早く答えた。まるで用意してあったかのように。 「そうね。二つだけにしましょ。あなたが掴める手は二つだけなんだから」 「そうだなぁ。」 少しの沈黙の後、言った。 「僕の両手で君の両手を掴んで一緒にダンスでも踊ってみたいかな」 少しキザだったか?そう思って彼女を見ると彼女の目はこちらを向いていた。 「あと一つは?」 「分からなかったかい?」 「あら、どういうこと?」 「君で僕の両手は塞がるんだ」 それいいわね、そう言って僕の手を掴んできた。最後に僕らが踊った曲はよく知らないラジオから流れていたよく知らない曲だった。でもそれは大事ではなかった。 「ふー。疲れたね」 「ワインでも飲む?」 そこには机の上に置かれてから一時間ほどたち、自分の出番をまだかまだかと待ち続けていたワインがあった。
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