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半年前のある日、ちょうど世界のどこかで星屑病が始まった頃。
いつも部活の終わりにみんなで集まっていた公園に先輩を呼び出した。
今日こそ気持ちを伝えたいと思い、私は公園のすべり台に体をもたれかけ、少し汚れたスニーカーの先をじっと見つめていた。
私には一分一秒がとても長く感じられたが、野中先輩は約束した時間きっちりに来ると、大きな焦げ茶色の目で真っ直ぐ私を見て笑いかけてくれた。
黄色いパーカーにジーンズの先輩は、何故か学校にいる時より少しだけ幼く見えた。
仲のよかった先輩とは、集団でだけれども学校以外で何度も会っていた。
先輩にとって私は特別じゃなくても、私にとって先輩は誰より特別だった。
緊張しきった私はろくな挨拶もできず、今日ここに呼んだのはずっと思っていることを伝えたくて、野中先輩のことを私はずっと本当に、と言いかけてそれから先何も言えなくなってしまった。
先輩は一瞬きょとんとしたが、人の気持ちを察することが得意な先輩にはそれでも伝わったらしく、大きな手のひらで私の頭をくしゃくしゃとすると
「三葉、ありがとうな」
と言った。
下を向いていた私がおそるおそる先輩を見上げると、先輩は部活で走る時、スタートの合図がなる前のような真剣な顔をしていた。
先輩はそれから何も言わなかったけれど、しばらくたってから少しだけ首を横に振った。
私は、膝の力がかくんと抜けそうになった。
ああ、先輩に振られちゃったんだと思うと急に心に大きな穴が空いたみたいに感じて、それからどう先輩と会話して別れたか何も覚えていなかった。
ただ分かっているのは、はっきりと言葉にした返事はもらえなかったけれど振られたということだ。
それから星屑病はこの国でも流行りだし、やがて休校になり野中先輩とも会える回数は減った。
休校になってからも、陸上部で時々集まっては、みんなで走ったし、野中先輩とも話したけれど、あの時のことについてはお互いに触れなかった。
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