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気が付いた時には柔らかな布団に寝転がっていて、頭上に広がっていたのは青空と山ではなく見慣れない木目の天井だった。 襖のほうから漏れ出る光で、窓の外ではすでに陽が落ちて真っ暗だと知る。 ここはどこなのか。 なぜここにいるのか。 少なくとも取っていたホテルではなさそうだ。 体を起こして辺りを見回していると、タイミングよく空いた襖から顔を覗かせたのは。 「お? 起きたか。具合はどうだ」 黒のつなぎを着て農場の説明をしてくれたその人だった。 「ほ、堀之内農園さんの息子さん、でしたか……」 堀之内彰人だと名乗った男性はそのように付け加えてぶっきらぼうに水を差し出してくれた。 電気をつけられた部屋の中を見回すと六畳ほどの和室だった。床の間に飾られた小さな壺には早くに染まったらしい紅葉がひと枝さされている。 どうやらここは彼の家らしい。畑で突然倒れた私はここに運ばれて寝かせてもらった挙句、日が落ちても寝こけ続けて今は夜の7時だと言う。 「母さんに起きたって言ってくるから、居間に来てくれ。トイレはここを出て右、居間は左な。布団はそのままでいいから」 ざっと経緯を説明してくれた彼に、驚くばかりで言葉を返せない私は、彼が出て行くまで水の入ったコップを握りしめたまま動けずにいたものの、これ以上待たせるわけにはいかないと一息に水を煽ってから手櫛で髪を撫で付けた。
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