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「お、いしい……!!」 「そうでしょうそうでしょう!たくさん食べてね、いっぱいあるから」 盛大に腹を鳴らしたご飯の数々はその香りに違わず、何を口に入れても幸福感に満たされる味がした。 園主であるお父様は今日は地域農業会での飲み会のようで、気がねせずに食べていってねと言われてかたじけないような、少し肩の力が抜けるような心地でついた食卓。 大きな居間は農業関係だとかお友達だとかお客さんを迎えることも多いようで、3人で食べるには随分とスペースの余る木のどっしりとした机が置かれていた。 その食卓には先ほどの誘惑通り、小ぶりの茶碗に盛られた伊佐米に、ねぎと様々な野菜の色鮮やかな炒め物。細かくしたねぎを混ぜた肉味噌に、さつまいもを入れて甘めの餡を絡めた酢豚のようなものに常備菜の小鉢と、多すぎるのでは?という量が所狭しと並べられていて、彰人さんがそれをものすごいスピードで片付けていく。 これは私も早く手をつけなければ食べ損ねる品が出てくるぞと箸を構えた時だった。 「最初から顔色悪いとは思ってたけど、本当にぶっ倒れるとは思わなかった」 「あら、2人とも会ってたの?」 「ええと、」 忘れていた。 まさか説明を聞いてなくて彰人さんがフォローしてくれましたとは言えまい。 なんと言ったものかと瑞々しい伊佐米を咀嚼しながら言い訳を考えていたのだが。 「八幡さまんとこですれ違っただけ。見ない顔だなと思ったんだよ」 「え!?」 思わずはっと顔を上げてあの精悍な顔をじっと見る。 確かに神社で男性とすれ違った気はするけれど、その人がどんな風貌だったのか全くといっていほど記憶にない。 「あれ、違うの?」 首をかしげる奥様と、黙々と食べ続ける彰人さんに挟まれて何が正解なのかもはやわからず、うまい答えが出てくるはずもなく。 「あ、いえ、その……あの神社に惹かれて伊佐に来たものですから夢中で。彰人さんも参拝だったんですか?」 「俺は奉納。普通は今年一番にできたものを納めるんだけど、今から収穫して酒造りだからな。美味いもの作れるように祈願を……あ、そうだ。日本酒と芋焼酎うちにもあるぞ。飲むか」 「えっ」 「ああ、そうよね! ちょっと待ってて、今お出しするわ」 「いえ、奥様!お構いな、く……」 時すでに遅し。彼女はすでにばたばたと台所へ戻っていた。 図々しくもご飯を食べてる時点で恥の上塗りもいいところなのだが。
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