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「……は、」 巨大な木々を前に、空っぽの肺を潰すようにして息を吐き出した。周囲にあふれる自然のおかげでここらの風は少し寒さを感じるほどだ。 両脇を固める仁王の石像とその中央の石鳥居を抜け参道を歩いた先に見えたのはこの木々の緑とは対照的な、目を見張るほど鮮やかな赤。 目にとめた瞬間、思わず胸に突き上げるものを感じて唇をかみしめるも、間に合わずに涙が頬を伝う。 琉球建築を思わせる一風変わった目の前の神社こそが、今回の逃避行を決めた理由だった。 ほとんどなんの用意もしないままキャリーケースに適当な服を詰め、飛行機を予約した。衝動的な旅に必要だったのは”非日常”だ。 あくまで自分の生活をかけらも思い出さないような異質さに目を引かれた。遠くまできた実感がほしかった。 言ってしまえば、疲れ果てた身にはそれさえあれば、どこだって良かったのだけれど。 ここに来ることそのものが目的のひとつであって、その目的を達してしまった今、私はこれからどうしたらいいのか。 再び自分が空虚になる感覚はまさに思い出したくなかったそのものだった。
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