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滝の上が平坦だからか、帯状に落ちていく水が確かにナイアガラを思わせた。
巨岩の間を勢いよく水が流れ落ちていく風景が写真や絵葉書のようなそれなのに、あたり一帯に響く音は体を震わせ、心臓を揺らし、芯に響く。その迫力が目や耳を圧倒するのだ。
ここまでくると声を張らなければ普通に話すということも出来なくて、お互い無言で歩いていく。いくらか下流の方に足を伸ばしてようやく、彼はおもむろに口を開いた。
「昨日酒飲むかって言われた時も、ここに来たいかって聞かれた時もそうだけど。あんたさ、もっと自分がやりたいこととか思ったこととか、口に出せよ」
「え?」
「もっと自分を大事にしろ」
少しは滝から遠ざかったはずなのに水がごうごうと音を立てている。
木々がざわめいて心を揺らした。
思わずその場で足を止めた私を、数歩先で同じように立ち止まった彰人さんが振り返る。
その目は何度か絡んだ視線と同様に、じっと私の奥底を見ているようで、耐えきれずに先に逸らしたのは私だった。
「大事にしてきた、と思うんですが」
「自分が倒れるまでやることがか?」
「……」
倒れた身で言い訳できないのはもちろんだが、これは恐らく昨日の食卓での会話を指していた。
『あかねちゃんはどうして伊佐に?』
堀之内さんの疑問も当然で、私は広告動画を見たからというのを理由の筆頭に挙げながら、少しだけ本音をこぼした。
『会社に疲れちゃって、遠いところに行こうと思ったので』
嘘ではないが全てではない。
そしてここにくる前も残業で寝不足だと打ち明けていたから、人をよく見ている彰人さんにはそれだけで充分だったのだろう。
「なんの劣等感か知らないけど、人一倍やらなきゃとか、そういうのいらないんだよ。もう少し頑張れば、自分がやればって自己犠牲で倒れかけてここにきたくせに、やっぱりお前は変わってない」
けれど、その物言いでカッと頭に血がのぼるのがわかった。
信じられない。
今まで人が通してきた頑張りをなんだと思っているのか。
会って二日の人間に何がわかる。
そんな思いが騒がしく去来して、握りしめた拳の手のひらに爪が食い込む。
抑えなければと思った時にはもう、その言葉は口をついて出ていた。
「お会いして二日の彰人さんに何がわかるっていうんですか」
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