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「彰人さん!見てくださいこれ!」
曽木の滝から帰ってきたお昼時。お言葉に甘えて結局昼ごはんまでご馳走になった。
明日はもう東京に帰る日だからと、参加できなかったねぎの収穫に午後から一人で参加することになったからだ。
考えてみれば昨日ぐっすりと寝こけたおかげと、彰人さんにもらった言葉のおかげでいつもよりずっと体も心も軽い。
手に山ほどの金山ねぎを抱えた今は特に達成感も手助けしている。
「あっは」
しかし、私の方を見た彰人さんは一瞬器用に片眉をあげると、今度は破顔していた。
どうやら彼は笑う時には眉尻が下がるし、思っていたよりずっと表情が豊かに変わる。
「?どうかしましたか」
「そういうのがいいよ」
「え?」
「そうやって、変に難しく考えないで、心の底から笑ってる顔の方がずっといい」
にっと歯を出して笑う彼の笑顔を、私はこのとき初めて見たことにようやく気付いた。
土ついてる、と指で自身の頬を指差した彼の仕草でようやく、自分の顔に軍手で触れた時についたらしい土をこさえていたことにも。
「神社にいた時、また随分と生気がないやつが来たもんだと思ったんだよ」
「流石にそれはあんまりでは?」
「はは、覚えてないやつに言われたくないね」
「ぐうの音も出ないですね」
軽やかなやりとりはいろんな作業をしながら、日が暮れ始めるまで続いた。
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