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ほら、と渡されたのは近くにポツンと立つ自動販売機から出て来た緑茶だ。 秋とはいえ太陽の下で仕事をした後の冷えたお茶ほど美味しいものはないと気付いてしまった気がする。 しばらくそうしてお互いに何か言葉を発することもなく並んで座っていた。まだ知り合ってからは二日だというのに沈黙が痛くない人というのは不思議だ。 「次はいつこっちに来られるんだ」 彰人さんは夕日に目をやったまま、一度緑茶を煽ってふと呟いた。続く「あ、いや」という言葉と少し泳いだ目線が、溢した言葉を口に出すつもりはなかったことを表しているようで少し心が騒ぐ。 次。その頃自分が何をしているのか。 「正直いうと、まだ全く計画がないのでなんとも言えないです」 「だよな。悪い」 「でも」 続けた言葉に、彰人さんががしがしと頭をかいた手を止めて次の言葉を促すようにこちらを向く。 田んぼの上に開かれた空は遠く高く、やがてくる夏の終わりはもうすぐそこのように思えた。 隣の彼の顔は夕日を浴びて影を作りながら、その目の輝きは初めて会った時と何も変わらない力強さは全く隠れていなかった。 「また、必ずきます」 この土地が好きになってしまったから。 過去の私は一度死んだのだ。 だから新しく人生を始めるなら、ここがいい。 「そうか」 ふっと一瞬だけ笑みを履いた彼は空気を和らげて再び夕日に目を移す。 「早くて冬には来るんならこっちは盆地だから、下手すると日本海側より寒ぃんだよ。ちゃんと防寒してこいよ」 「ふふ、わかりました。ありがとうございます」 湿気を孕んだ生ぬるい風が吹く。 やがてくる刈り取りを待つ黄金の原が、生らした穂を重たげに揺らしてさわさわと音を立てた。
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