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約2時間のフライトを終えて空港の外へ出ると、湿気をはらんだ風が一瞬むわりと入口から吹き抜けていった。
10月にもなると時折風が冬の香りを運んでくるものだけれど、この南の地はまだ少し夏の様相に足を浸しているようだ。
ここから伊佐市、正確に言えば宿を取っている大口地域までバスに乗って再び一時間ほどの旅になる。
受け取ったキャリーケースは大した荷物も入っていないのに重たいばかりで、この荷物を抱えたまま右往左往する気力もない私は、最低限移動手段だけは調べていた過去の自分に感謝しながらバス停までを生ぬるい風に煽られて歩いた。
空港から大口へ向かうバスは、そのほとんどの経路を九州自動車道と国道268号線に沿って北上する。
窓から見える景色は空港から離れれば離れるほど町の風景からは離れて、次第に山ばかりの中を走るようになっていた。
右手に見えたあのどれかが温泉で有名な霧島山らしい。
稲穂を金に染めて重たそうに垂らしている水田と畔を彩る彼岸花の赤いラインを見かけるとそれは近くに町がある証で、そんな町中もいくつか通り過ぎたと思う。
どこも高層ビルが乱立するような場所ではなく、いつも視界に緑があって空が開けている様がずいぶん遠くに来たのだと思わせた。
こうして景色を見比べていると、どうしてもあの人がひしめく都内を思い出す。
一旦離れて少しでも考えてみればよくわかるものだ。
放っておいても涙が流れるような、心身ともに削っていく職場環境が良好なわけがない。
でも緊張状態のまま時間とタスクに追われる毎日の中で、その結論に至るよりも先に歯車を回し続けることを考えてしまう。回さなければ死んでしまうような強迫観念に脅かされているとも知らずに。
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