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そんな折に知ったのが、この鹿児島の伊佐という土地だった。
なんでも市になって10周年という記念に、観光を盛んにしようという動きがあるらしい。
たまたまインターネットの海で見かけた伊佐市の紹介広告動画には、色鮮やかな景色が代わる代わる映されていた。
雄大な自然とノスタルジックな学校、冬にはダムの底に沈む遺構、そして小さな神社。
そんな景色は、あわただしい朝夕の満員電車を乗り継いで職場と家を往復するだけの自分の生活とはかけ離れていて現実味がなかった。
勢いのまま東京から鹿児島行きの飛行機を取るほどに。
あんなところに殺されるくらいなら逃げたほうがましだった。私の選択は正しかった。
盛大に嫌味を言われながら土日とつなげて確保した三泊四日の有休明けに職場へ戻る勇気があるのか、今の私にはなんとも言えない。
正直なところ、この鹿児島の見知らぬ土地に惹かれたわけではなかった。
疲れ果てた身には、放っておいてくれさえすれば、どこでもよかったのだから。
バスがついたのはすでに15時を回った頃だったろうか。
ついたその足で再びキャリーケースを引きずりながら目指したホテルは意外とすぐに見つかった。
「予約しておりました、関口あかねです」
「はい、関口あかね様ですね。ご予約承っております。本日から3泊のご予定でお部屋はシングル、朝食付きプランでお間違いないでしょうか」
「はい。お世話になります。あ、すみませんこの辺の観光マップとかありますか」
大口地域内で一番交通の便がよさそうなビジネスホテルを宿としたのは正解だったかもしれない。
大口のバスセンターからは徒歩10分もかからず、そのバスセンターからは市内を走るバスが全路線伸びていた。
ざっと眺めるに観光場所はおおむねPR動画のままのようだが、大体はこのバスでなんとか行けるのではないか。
まず目指すはあの一点。
広告の中でも一際目を引いたあの印象的な赤を持つ神社だ。
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