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「ありがとうございました」 ホテルについたのが15時を過ぎているということもあり、すでに大口バスセンターから郡山神社まで行くバスは最終便が出てしまっていた。 仕方なく乗ったタクシーの運転手は気のいいおじさんで郡山八幡神社までというと彼の思い出をあれこれ話してくれた。地元の人にとっては随分と思い出深い土地らしい。 降りたタクシーは天高く晴れた空の下、来た道を戻っていく。 髪をさらい涼やかに吹く風がここに来たことを歓迎してくれているようで、わずかに頬を緩ませた。 ホテルでもらった観光マップによれば、郡山八幡神社は神功皇后がご祭神だとか。ここには日本最古の焼酎に言及した資料もあるとか。 琉球文化の様式が見られる理由がわかっていない不思議な重要文化財、郡山八幡神社。 緑生い茂るその場所はところどころ紅葉が始まっている木々もあり、遠目に見てもひやりとした荘厳さをたたえてそこに佇んでいた。 「……は、」 巨大な木々を前に空っぽの肺を潰すようにして息を吐き出す。周囲にあふれる自然のおかげでここらの風は少し寒さを感じるほどだ。 参拝を終えて向こう側から歩いてくる若い男性と一瞬噛み合ってしまった視線に少しの気まずさを覚えながら会釈を交わすと、次の瞬間、その気まずさは一瞬にして頭から飛んだ。 参道の両脇を固める仁王の石像とその中央の石鳥居を抜けた先に見えたのは、この木々の緑とは対照的な、目を見張るほど鮮やかな赤。 目にとめた瞬間、思わず胸に突き上げるものを感じて唇をかみしめる。間に合わずにこぼれた涙はそのままだ。 本当にいるのかどうかわかりもしないし、ここのご祭神にどんな力があるのかもわからない。 けれど心の虚に耐えかねた時、人の多くは神頼みを選択肢に入れるらしい。 これからどうしたらいいのかと、縋れるもの、頼れるもの、道を指し示してくれるものを私は無意識に探していたのだろうか。
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