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よく眠れぬまま流れるに任せた涙を拭くことも、瞼を冷やすこともしなかった夜が明け、少し赤く腫れている瞼を擦らないように支度を済ませたのだが。 選択式だというホテルの朝食に和食を選んで腹を満たした後、エレベーターの前に立ち尽くす。 部屋に戻るとそれ以降することがないのだ。久しく暇を持て余すような状況にも陥らなかったから、旅行に来たからといって無計画では咄嗟にやりたいことも思い浮かばない。 行きたい場所といえば広告の動画をもう一度見ればめぼしもつくのだろうが。 頭に浮かべたいくつかの場所への行き方を調べることすら面倒だと思ってしまう自分もいる。 どうしたものかと頭を捻った時、ふと目に入ったそれはこのあたりの催しをまとめた掲示板のようだった。 『農業体験しませんか?』 簡潔に書かれたポスターは、この地の名産らしい伊佐米といくつか品種名の書かれたさつまいも、金山ねぎなどの農作物の収穫が体験できる旨の説明とそれらの写真や去年の収穫の様子を映したものがちりばめられていた。堀之内農園というのがこの農業体験の主催らしい。 農業体験なんて、幼稚園にやった芋ほりと小学生の時にやった稲のバケツ栽培ぐらいなものだ。 「あの、すみません」 おろしてしまったエレベーターを無視してフロントに声をかける。 どうせすることもないからとダメ元で今日の開催に間に合うか問い合わせてほしいといえば優秀なフロントスタッフはすぐに手配をつけてくれたようだった。 感謝を述べたところで、初めてそこにいくまでのバスなどのアクセス情報を聞きながら胸をなでおろす。 場所も聞かずにきめてしまったけれど、どうやらこの中心部からそう遠くはないようだ。
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