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「その後も何度でも、言える機会はありました。僕はその全部から逃げたんです……ごめんなさい、悲しい思いをさせてしまって。結婚と言われる度に踏み切れなかったのは、これだったんです。沢山の隠し事を塗り込めてきてしまったから、今になって身動きがとれなくなってしまったんです」
「……もう、良いよ」
改めて優しく背を撫でられる。髪を撫でられて、見上げればキスが落ちてくる。背に甘く広がる痺れ。欲しいと心が訴えかけてくる。
「何を知っても、私の心は変わらぬ。ラウル、愛している。罪はこれから二人で償おう。お前が苦しいならば、私が側にいて支えていく。誰が何を言おうとも、私は其方の味方でいられる。過去は消えぬが、それを含めて私は其方を愛する。何をしても、私が知っているラウルは変わらぬと、分かったから」
真っ直ぐな瞳、優しい言葉。この人から紡がれる「愛している」を聞く度、胸が甘く切なくなる。そして何度でも思う。「僕も愛しています」と。
「僕なんかが……幸せになってもいいのでしょうか?」
新しい涙が溢れてくる。犠牲の上の命、かつての友を踏み台にした今。そんな者が幸せになんてなれるのだろうか。
「スチュアートさんが、僕を逃がして騎士団に行けと言ってくれました。その人を、僕は殺した。ウォルターはあの場所を家だと思っていたのに、奪って歪めたのは僕なんです。他にも沢山……僕は踏みつけてきたんです。そんな僕が……幸せになってもいいのでしょうか?」
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