忘れたくない人(ラウル)

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 仕事も分からないのに、思わず言ってしまった。それに目を丸くしたのは、シウスだった。 「手伝ってくれるのかえ?」 「え? はい……ご迷惑ですか?」 「いや」  嬉しそうに綻ぶ顔に、安堵した。拒絶されない、それがとても嬉しかった。  仕事はシウスの指示通りの書類を他の兵府の執務室に持っていく事。宿舎の案内はランバートがしてくれたから、覚えている。  とても早く走る事ができる。早く階段を上り下りしても危なげがない。それに、疲れない。  こんなに力がついていたんだ。このくらい平気なんだ。  不思議だった。思った以上に体が軽く、思うように動く。目が捉えるものが多くて、一筋が見えるみたいだ。それに、ちっとも疲れたなんて思わない。  シウスの助けができる。ここで、役立つ事ができる。それがラウルにとって何よりも嬉しいことだった。  今日は、シウスの診察の日。倒れてから一週間くらい経った。ラウルは一人裏庭の景色を見ている。 「早く終わらないかな……」  景色が寂しいからか、なんだか寂しい。雪の積もる地を蹴飛ばしながら手持ち無沙汰にしている。  目の前にはすっかり葉を落とした木があるのみだ。  シウスと、沢山話しをする。眠るときは一緒のベッドで眠った……少し恥ずかしい。     
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