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ラウルは木の幹に手と足をかけて登りだす。体が自然と動いて、高い木も危なげなく登っていける。あっという間に子猫のいる枝まで登ることができた。
「もう少し。もう少しだからね」
そっと体を四つん這いにしたまま子猫の所までにじり寄る。手が、あと少しで届きそう。
「大丈夫、怯えなくていいよ。ちゃんと下ろしてあげるからね」
あと少し、指が届く。あと、少し……
「あ!」
子猫は寸前になって枝の先から下へと飛び降りる。それに驚いたラウルは足を滑らせて真っ逆さまに落ちていく。
「っ!」
落ちる! 落ちてしまう!
思った瞬間、目の前の映像がダブって見える。新緑の匂い、折れる枝。ガサガサと音を立てて落下している。
そうだ、飛び移る時、寸前にトリが飛び立ったのに驚いて足を踏み外したんだ。
「ラウル!」
落ちていく、その先。体を打つ事を覚悟して受け身を取った。けれど、誰かがその体を掴まえてくれた。
「っ!」
一緒になって転んだ先に見た、綺麗な水色の瞳。冬に見る、氷を張った湖のように静かで、吸い込まれてしまいそう。
キラキラ日に輝く白い髪が草の緑に散らばった。昔、シスターが教えてくれた。国を作った王様を導いた、綺麗な天使の話し。白は穢れのないものの色。清廉の色なんだ。
「あ……」
「ラウル、大丈夫かえ! どうした、どこか打ったか?」
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