忘れたくない人(ラウル)

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 あの日と同じ、受け止めたシウスを押し倒して上に陣取ったラウルは激しい頭痛に襲われた。でも、逃げたくない。この痛みの先に、きっとあるんだ。欲しくて欲しくてたまらない、大事なものが沢山。 『ラウル、今日から君はこの屋敷の庭師だ。よろしく頼むよ』 『はい、アンドリュー様』 「!」  十四歳、みなしごの自分を育ててくれた教会に早く恩返しがしたくて、貴族のお屋敷の庭師見習いになった。住み込みで、衣食住がついた。 『ラウル、お前はとても覚えがいい。どうだい? 将来は執事を目指してみないかい?』 『執事ですか? 僕が?』 『あぁ。その為の勉強や教養、立ち居振る舞いも必要だ。場合によっては私を守ってくれないと困る。その為の武術も教えよう』  認めてもらう事が嬉しかった。だから一生懸命勉強をした。教会出の自分が執事なんて、信じられない。もしもこれが本当なら、教会に沢山恩返しができる。  早く一人前になりたい。勉強して、体術やナイフの使い方を教わって。  これは、必要なの? 執事はこんなに沢山武器が使えなくちゃいけないの? 『よぉ、お前がラウルか! 今日から俺達友達な!』  ニカッと笑う少年は、一歳年上の兄弟子。ウォルターは暴れん坊だけれど、気持ちのいい人だ。 「あ……あぁ……」 「ラウル!」  頭が痛い。でも、止まらない。駄目、これ以上思いだしたらここにいられない。これ以上は駄目なのに!     
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