忘れたくない人(ラウル)

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 ――だからって、忘れていい事じゃない。 「うぅ……っ!」  倒れ込んで、痛みに耐えられなくて視界が消えていく。  でもラウルは手放せなかった。痛くて苦しい記憶の欠片を手放したら、もう二度と大事な事を思い出せない気がしていた。 ==========  善良な主人だと思っていたアンドリューは、僕を殺し屋にした。僕だけじゃない、他の多くの子供達も。  僕は庭に小さな墓を作った。埋める物もないけれど、そうすることでここに友人が帰ってきてくれる気がした。 「ラウル」 「スチュアートさん」  後から声をかけられて、振り向いた。一番の古株のスチュアートが立っていて、悲しそうな顔で僕を見ていた。 「お前はいつまで経ってもまともだ」 「みんな、そうでしょ?」 「どうだかな。見てみろ、皆何かの感覚がおかしくなってる。しくじった奴が消されても、お前以外は涙も流さない」  そう言われると悲しい。僕だって麻痺してしまいそうだ。  今日死んだ子は、同い年でとても仲が良かった。けれど足を負傷して……もう使えないからと処分された。  どうして、そんな事ができるのだろう。昨日まで一緒に生活していたんじゃないの?  思いだして、また涙が出た。そこに、ハンカチが一枚差し出された。     
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