忘れたくない人(ラウル)

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「使ってください、ラウル」 「クラークさん……」  皆のお母さん、皆のお姉さん。そんな優しいクラーク。  僕は、この兄弟にお世話になった。皆を引っ張るスチュアート、優しいクラーク、ガキ大将のウォルターと、体の弱いホレス。  この兄弟がいて、この組織は回っている。残酷な主は命令するだけ。僕達の事は何も、考えていない。 「スチュアートさん、僕……やっぱりこれは、間違っていると思います」  友人の墓の前で、俯きながら僕は伝えた。クラークは少し驚いたけれど、スチュアートは驚かなかった。 「では、どうする?」 「……騎士団に、自首します」 「ラウル、それは!」  クラークが驚き慌てて止めようとした。けれど隣のスチュアートがそれを腕で制してしまう。静かな瞳が、ジッとこちらを見ている。 「お前は、一番まともで賢いからな」 「……駄目、ですよね」 「いや、好きにしろ」 「え?」  静かな声に抑揚はない。けれど気遣わしい瞳は、声以上に感情を伝えてくれる。 「いけませんラウル。僕達の罪がどれほどか分かっているでしょう? こんな事を騎士団に告発すれば貴方だってただじゃすまない。処刑を免れません」     
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