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「口を開くな。ラウル、お前に頼みだ。終わらせてくれ」
寂しい声だと思った。こんな事、初めてだった。命令や作戦はあっても、頼みなんてなかったんだ。
切り結ぶが、ラウルのダガーは鈍った。他を切り伏せても心はあまり痛まなかったのに、沢山の言葉を重ねた四人を殺したくなかったんだ。
「ラウル、お前の優しさは知っている。だが思うなら、楽にしてくれ」
首を横に振りそうになって、でもできなくて。悩んで、苦しんで、生きてて欲しくて、でも死を望んでいて……
ブチッと、何かが切れた。考える事、感じる事にも限界が出たのかもしれない。
気付けば手は血濡れていた。目の前のスチュアートは沢山の血を流しながらも、穏やかな顔をしている。
「ありが……とう……」
彼の見せた笑みは、とても綺麗だった……
思いだした。隠したかったのは、苦しかったのは、痛かったのはこれなんだ。人を、殺め続けた。
そして四人に罪をなすりつけて、生き残っている。たった一人で、今も背負っている。罪は許されると言うけれど、僕自身が許せていなかった。
ごめん、ウォルター。苦しかったよね。信じていたのに……裏切ったのは僕だよね。恨んで、そうして生きてきたんだね。
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