忘れたくない人(ラウル)

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 ごめんなさい、シウス様。本当は言おうと思っていた。付き合って欲しいと言われた時に、言わなければと思った。でも、言えなかった。心地よい場所にいたかった。傷ついた心を癒やせる場所を僕も求めていた。  シウス様はよく僕を「癒やし」というけれど、僕だって癒やされていた。貴方の優しさを、僕は欲したんだ。  ウォルターが僕を乱暴した。シウス様に申し訳が立たなかった。でも、抵抗もできなかった。子供達を取られていたのもあるけれど、それ以上に罪の意識だった。彼以外、誰も助からなかった。  同時に、シウス様に謝った。綺麗な体ではなくなってしまった。こんな汚れたものを、シウス様は欲するだろうか。きっと今回の事でシウス様にも僕の罪は知られている。隠し事がバレて、更に犯されて……嫌われるには十分過ぎる理由だ。  嫌だ、怖い。否定されるのは怖い。拒絶されるのは怖い。  逃げたくて、逃げようとして……そのうちに、何もかも分からなくなってしまった。  ごめんなさい、シウス様。貴方を信じればよかったのに、できなかった愚かな僕を許してください。僕はやっぱり貴方の側でなければ、息もできないんです……。
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