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好きでいて、いいですか?(ラウル)
目が覚めて、頭痛の残滓にほんの少し額を抑える。
大丈夫、この痛みは名残。思いだした沢山の痛みが、ちょっと抵抗しているだけ。
「ラウル!」
「シウス様」
見下ろす冬の湖面の瞳は、必死な様子で見つめている。泣いてくれたんだ、目尻を擦ってる。肌が白いから、赤がとても綺麗に映える。
ラウルはそっと手を伸ばして、目尻に触れた。呼吸も整って、気持ちも整った。そうしたら、すっきりと落ち着いた。
「ラウル、平気か? どこか痛まぬか? 待て、すぐにエリオットを……」
「待ってください、シウス様。エリオット様は不要です」
しっかりした声で伝えれば、知的な瞳がパチパチと瞬く。長い睫毛。それまで白い。
「お願いです、側にいて。話しがしたいのです。シウス様、僕は貴方に伝えなければいけない事が沢山あります。とても一日では語れないのです。お願いします」
「ラウル、其方記憶が」
「……はい。本当に、ごめんなさい」
苦しさと、罪と、痛みと、懺悔から逃げてしまった。そうしたら、大切なものを失った。過去から逃げたこれが罰ならば、痛みなど平気だった。
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