404人が本棚に入れています
本棚に追加
涙がポロポロ出てくる。止められないけれど、これでいい。涙と一緒に苦しいが出て行く。だからこそ、前に行ける。
「ごめんなさい……」
「ラウル」
「ごめんなさい! 僕は貴方に相応しく無い! 貴方が愛してくれるような、そんな綺麗なものじゃ!」
強く抱きしめられ、顔ごと胸に押しつけられて、言葉が切れた。触れてくれる手が、震えている。
「良いのじゃ、ラウル。私はなにも、綺麗なものを求めたのではない。其方を求めたのだ」
「シウス様……」
「其方でなければ意味がない。それを、此度思い知った。お前の罪を知って驚きはしても、それを責めたり穢れとは思っておらぬ。ラウル、すまぬ。私が押し切ったのだ」
静かな声も震えていた。絞り出すように紡がれる心に、触れている。
ギュッとシウスの胸元にしがみついて、ラウルは静かに泣いた。
覚えている。貧しく美しい娘と貴族の恋の歌劇を見て、ディナーをして……告白された。あの時、言わなければと思っていた。
出かかった言葉は、シウスが遮らなくてもあれ以上出なかったのだ。喉の奥がひっついて、苦しくて言葉が出てこなくなっていたのだ。
「謝らないでください。言わなかったのは、僕です。隠したままでもいいから、側にいたかったんです。僕も、シウス様が好きだから」
「ラウル、だが……」
最初のコメントを投稿しよう!