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嬉しかった。嫌われすぎて、それが当たり前だと思っていた。知れば離れると思っていた。だからこそ、側にいてくれる彼が愛しい。
自らに課した猶予は、徐々に苦痛になった。周囲が幸せお花畑だというのに、シウスは自らにした枷を取れずにいる。
だがそれも後少し。今年、ラウルは約束の二十歳になる。背も伸びて、少年から青年に成長してきている。
なのに最近、ラウルはこの話が出ると逃げる。いつものように側にいるのに、結婚しよう、一度挨拶に伺いたいと言えば途端に歯切れが悪くなってしまう。
拒まれている? 何か、隠したい事があるのだろう。
小さな棘がシウスを攻撃し続けている。そのせいか、最近眠りが浅い気がする。
ラウルと共に訪れたのは上東地区と呼ばれる、古くからある庶民の町だ。
ここは下町のような新しい土地ではなく、昔から庶民が暮らす穏やかな土地だ。下町のような活気も、西地区のような華やかさもないが、どこか懐かしい庶民的な雰囲気は落ち着ける。
どんどんと奥へと向かうラウルは、やがて一つの教会の前で足を止めた。
古い教会だが、手入れがきちんとされている。鉄柵もしっかりしていた。
「ラウル、ここは……」
言いかけた時、庭で遊んでいたらしい子供の一人がラウルを見つけ、パッと表情を明るくする。
「あっ、ラウル兄ちゃんだ!」
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