思い出(シウス)

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 普段は仕事が溜まるので急な休みは取らないのだが、この時は違った。ラウルを誘い、近くの温泉地へと赴き、そこでひたすらに口説いた。 「其方が好きだ、ラウル」  悩みに悩んだ告白は、結局いい事など何一つ言えなかった。緊張して、声も震えていた。  そんな私に、ラウルは酷く戸惑った顔をした。当然だ、罪を思えば恋愛など到底できるはずもなかったのだ。  知らない私は尚も彼を求めた。温泉では保留になり、寄宿舎に戻ってきては毎朝毎夜食事を共にした。  そのうちに部屋で開く酒宴にきてくれるようになった。私はベッタリとあの子の側にいて、話しをした。  他愛ない事だ。最近の仕事の様子、何が好きか、何が嫌いか。食べ物の好き嫌い一つで二時間以上話す事ができた。 「ラウル、私は本気だ。本気で、其方を愛している。私の事が嫌いか?」  出会いから半年後、私は歌劇にラウルを誘い、ディナーをして、このように切り出した。  あの子は困って俯くが、首を横に振った。 「では、好いてくれるか?」 「でも、僕は……」 「難しい事などいらぬ。其方の心に問うておる。頼む、ラウル。其方の気持ちを聞かせておくれ」  たっぷりと悩んでいた。けれど私はこの時の悩みを身分の違いだと取った。貴族社会ではそれが一番のネックになるのだから。     
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