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だが、違ったんだ。あの子はもしかしたらこの時、言おうとしたのかもしれない。自らの事を、私に。
けれど言わせなくしてしまった。あの子の言葉を遮った。否定的な言葉を聞きたくなかったのだ。
「ラウル」
「好きです。僕は、シウス様がとても、好きです」
俯けた顔を上げ、頬をほんのりと染めたあの子は笑っていた。飲み込んだのだ、この時。飲み込ませてしまったんだ、私が……
そこからは、毎日が明るくなった。あの子は私を叱る、私を癒やす、辛くても笑みを取りもどさせてくれる。
エルであることを、受け入れてくれた。悩みに悩んだ苦しみから解放してくれた。
私の中であの子はあまりに大きい。共に笑い合った日々が宝物だ。
でも、その宝物は一方的なものになってしまった。あの子の心はひび割れて血を流し、あのままでは笑みの一つ浮かべる事ができなかったのだろう。
教会で抱いた、あの無機質な瞳が怖い。あの目に戻るなら、記憶はいらない。例え仲の良い友になってしまっても、例え他の誰かをあの子が愛しても……結果離れて生きる事になっても、私だけはあの子を覚えている。あの子を、想っている。
ふと、目が覚めた。長く寝ていたのか頭が痛い。体は重怠く、熱があると感じられる。そして、目が腫れぼったい気がした。
「シウス」
「ファウスト?」
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