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たまらず、シウスはラウルを抱きしめていた。頭を引き寄せ、強く胸にかき抱く。
やはり、愛しくて堪らない。側にいて、触れずに居られるわけがない。記憶などなくてもいい、無いならば最初から作ってゆくから、だから……。
「愛している……」
「え?」
「愛している、ラウル。私は其方が愛しい。其方を、忘れる事はできない」
苦しいものを吐き出すように、シウスは気持ちを伝えていた。
そっと、背中に手が触れてくる。戸惑いながら、それでも。
「不思議、です」
「ん?」
「何も覚えていないのに、この腕の中がとても安らげます。開いていた穴が、埋まるように」
「ラウル」
「僕も、シウス様が好きだったのでしょうか? 寂しいのも、苦しいのも、不思議と消えていきます。足りなかったものが、満たされるみたいです」
涙は自然と止まっていた。腫れぼったく赤くなった瞳で、それでもラウルは柔らかく微笑んでいる。
そっと額に、赤くなった目元に、そして唇にキスを落とす。ラウルは何も拒まず、どこかホッとした笑みを浮かべていた。
「帰ろう、ラウル。其方を思い手放すなど、逃げだった。其方の記憶は必ず取りもどしてみせる。いや、戻らぬならばここからまた、作って行けばよいことだ。其方の中に私を想う気持ちがあるならば、きっと」
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